瞳の奥にある世界

私が小笠原諸島の父島にロケを決めた時、お世話になった先輩が
「この子に会うと面白いかも」とkuraさんの存在を教えてくれた。 滞在はもちろんロケ目的だったが、当時の私は、鉄や錆、廃墟に夢中。
全てが揃っている夢の旅程コース”戦跡ツアー”は、滞在の大きな目的でもあった。
彼女に会う前にと申し込んだそツアーはベテランガイドと2人きりという、
願ってもない好況で始まった。
要塞のような地下壕と大本営、岩をくりぬいて作られた砲台。
午前の予定を終えて昼食に戻る矢先、突如として私は交通事故に巻き込まれてしまった。
ガイドの脇見運転により、路肩の街路樹に正面衝突。 エアバッグが作動しガイドは無傷だったが、
後部座席の私は顔面を座席に打ち付けて顔が腫れ上がり、
首を強く捻挫してしまった。
明日からの活動は全て中止、息抜きで予約したアクティビティも違約金を払わなくてはという漫画のように不幸な状況に陥った。
そんな中途方に暮れて、彼女が居るという喫茶店に向かった。
出会いは本当に最悪な気分だった。
初対面は違和感アリアリだっただろう。 気落ちしたしがないカメラマンが、無言で、わずかに瞳を濡らしながら珈琲をすするのだから。

それは大変でしたねと返す彼女。
気になったのは、その瞳。 滞在中にたくさん話したわけではないのだが、
どこかその野生的な瞳が私の直感を刺激したのだろう。
「匂った」のだ。
本島へ帰り、彼女が小笠原を引き上げて世界を旅し始める時くらいからメッセージのやりとりを始めた。
彼女がアーティストであること、その制作のスタンスや
大切にしていること、縛られない生き方に、私は共感した。
タイへもネパールへも、鳥取へも、
彼女を撮影しに行った。
現地で手仕事に触れ、その手仕事を編むように彼女は作品を作る。
誠実なスタンス、筋の通った素材への愛。
それが私は好きなのだ。

いろんな壁(固定概念や頑なまでのこだわりを捨て去ること)を、
時には崖の切り立つ狭い未舗装路(パーイキャニオンの崖は本当に危険!)さえも、
ひょいと飛び越える力をくれる彼女。
昨年は鳥取大山、今年は静岡大井川と、ふたりで芸術祭へも参加した。

手紡ぎの極細麻糸が手に入らないとなれば、 納得のいく素材を新しく探し、それまでは作らない。
-過去の枠を超えていく-
そのことを教え続けてくれる友人。
次に会う時が楽しみだ。

きっとまた新しい彼女に会える。
客観的なレポートは↓
model : kura(HueRain)
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